良性発作性頭位めまい症は、起床時に起き上がったとき、寝返りを打ったとき、寝ようと横になったとき、上を見上げたときなどに起きるめまいです。
耳の器官に原因があるめまいでは、 いちばん多い病気とされています。
良性発作性頭位めまい症の特徴は、いつも同じ頭の位置でめまいが起きることです。その位置は人によって違い、「めまい頭位」と呼ばれます。
目次
良性発作性頭位めまい症の特徴
メニエール病とともに、めまいの原因のなかでも特に多く、内耳性のめまいの6~7割を占めているといわれているのが、良性発作性頭位めまい症です。特に中高年女性に多く見られますが、最近では若い年代や男性にも増えていて注目されています。
このめまいは特定の頭位変化(頭の動かし方)をしたときに発症する、ごく単純なものです。
良性発作性頭位めまいは特定のめまい頭位になるとめまいを生じ、数秒から2分ほどで治まります。
朝、布団から起き上がろうとしたとき、寝返りをうつたとき、しゃがみ込んだときなど、発作を起こす体勢は人によってそれぞれ異なります。
めまいには、グルグル回るような回転性のものと、フワフワするような非回転性のもの、 両方があります。
普通は数秒でめまい症状は治まる
フラフラとする回転性めまいを訴える人もいれば、体がふらつく人もいます。 回転性めまいの場合は吐きけももよおします。
症状はさまざまですが、耳鳴りや難聴を伴うことはありません。
原因は内耳にある耳石が何らかの理由で脱落して、 三半規管内に堆積したり浮遊するためと考えられています。
良性発作性頭位めまい症の原因
良性発作性頭位めまい症は、耳石がはがれ落ちたり、半規管内のリンパ液の循環が悪かったりして、 平衡機能に関する入力システムが正常に作動しないために生じます。
耳石がはがれ落ちるのは、加齢のほかに、女性ホルモン(エス卜ロゲン)の分泌量の低下などが原因とされています。
耳石の主成分はカルシウムなのですが、エストロゲンが減少すると耳石の代謝がス厶ーズにできなくなり、もろくなってはがれやすくなると考えられています。
良性発作性頭位めまい症が更年期の女性に多く見られるのは、エストロゲンの減少が関係しているのではないかと考えられています。
治療法
良性発作性頭位めまい症は治療をしなくても治ることがあるので、症状が軽い場合には特に治療の必要はありません。
めまいの症状やおう吐がつらい場合には、それらを抑える薬が処方されます。めまい症状が強くて不安なときは、 血流改善薬やビタミン剤、抗不安薬などを飲むという選択肢もあります。
平衡機能をきたえる運動療法や、薬物療法などで症状が改善せず、めまいが続くような場合には、半規管のなかのひとつをふさいで耳石が落ちないようにする手術を行うこともあります。
慣れることで症状を感じなくなる
良性発作性頭位めまい症になると線り返しめまいが生じるため、不安に感じる方が多いようですが、病気としての深刻度は高くありません。
めまいを繰り返していると、「代償作用」という慣れが生まれ、そのうちにめまいを感じなくなるのが普通です。
つまり、自らめまい頭位を取るようにして、慣れていくのが改善法です。 ただし、無理をせずにゆっくり慣らしてください。
良性発作性頭位めまい症の治療には、耳石を元の状態に戻すという説もありますが、運動療法による小脳のプログラミングの調整によって、よくなることがかなりあります。
頭を動かすとめまいを起こすので、あまり動かさないほうがいいと思い込みがちですが それは間違いです。動かさないほうがかえって治りが悪くなります。
また、アメリカのジョン・エプリー医師が開発したエプリー法というユニークな治療法もあり、一定の評価を得ています。
エプリー法による良性発作性頭位めまい症の治療
良性発作性頭位めまい症は、耳石が本来あるべき場所からはがれて、三半規管の中で堆積したり浮遊するためと考えられている。三半規管の中で一番異常が起きやすいとされているのが後半規管で、エプリ一法は、体と頭の位置を順々に変えて耳石を後半規管から元の場所に戻すための治療法(浮遊耳石置換法)で非常に効果が高いといわれている。
- あお向けになり、患部 が下になるように頭を左45度傾ける。
- 患部と反対側が下になるように、 頭を右45度傾ける。
- 患部が上になるように、 頭を右135度傾ける。
- 頭を傾けたまま上体を起こす。
- 頭を正面に戻し、20 度前に下げて固定する。
エプリー法は必ず医師の指導の下に行うようにする。
自分で出来る良性発作性頭位性めまいの運動療法
めまいの症状はつらいかもしれませんが、良性発作性頭位めまい症は内耳のセンサーの故障が原因なので、危険なめまいではありません。
頭位性めまいのみで、ほかの要因が潜んでない場合には、頭を意識して動かす運動療法がとても有効です。
良性発作性頭位性めまいの運動療法①
夜寝る前や朝起きたときに、上体をゆっくり起こし、2〜3秒そのままの位置で姿勢を保持してから、ゆっくりと元の状態に戻る。5〜6回繰り返す。背を押さえてもらいながら行うとよい。手をついてもかまわない。体を起こしにくい人はひざを少し曲げて行うとよい。
良性発作性頭位性めまいの運動療法②
床を見るようにゆっくりと頭を下げてひと呼吸した後、ゆっくり天井を向いてひと呼吸する。これを5〜6回繰り返す。 首だけで行わない。めまいがしたらめまいが治まるまでその位置で頭を保持する。
良性発作性頭位性めまいの運動療法③
横になった状態で、ゆっくりと寝返りをうってひと呼吸した後、ゆっくりと反対側へ寝返りをうつ。これを5〜6回繰り返す。首だけを早く動かさないこと。めまいがしたらめまいが治まるまでその位置で頭を保持する。
運動療法の効果
なぜ、このような単純な運動療法がめまいに効果的なのかというと、頭位性めまいは、内耳のセンサーから「頭がこの位置にきたときにはバランスが乱れる」という信号が小脳に送られているからです。
つまり、「頭がこの位置にきたらバランスが崩れてめまいが起こる」というプログラミングを、小脳が覚えてしまっているのです。
ここで紹介している運動は、このプログラミングを正常な状態に戻すための運動療法といえます。この位置で は必ずめまいが起こるけれど、それ以外の体位では大丈夫、めまいは起こらないよということをプログラムしていきます。
それを繰り返していると、小脳がその動きに慣れてきて、めまいを起こす頭位をとっても「大丈夫、めまいは起こらない」と認識するようになります。
新しいプログラミングが小脳にインプットされれば、それ以降はめまいが起こらないようになるのです。
そうなると、それまでめまいを生じさせるような位置に頭がきたとしても、小脳が「大丈夫。ここまでは許容範囲ですよ。めまいは起こりません」と判断するので、大脳も「バランスが崩れています。めまいが起こります。大変、たいへん」という信号を出さないようになり、めまいが起こらなくなります。
頭位性めまいも、グルグルと回るような激しいめまいやおう吐を伴います。一度、めまい発作を体験すると、「また動かすと発作があるかもしれない」と不安になって、頭をあまり動かさないようにする人が多いようです。しかし、動かさないでいると、間違ったプログラミングはいつまで経っても修正されません。
これを新しくプロクラムし直すためには、発作の前と同じような日常生活に早く戻り、 運動療法で小脳に学習させることが大切です。
そのためには先ほど紹介した「頭位性めまいの運動療法」を毎日行って、プログラミングの修正を促すとよいでしょう。
運動療法で動きに慣れさせることでめまいが改善することが多いので、ぜひやってみましょう。
悪性の頭位めまい症(ブルンス症候群)も存在する
良性発作性頭位めまい症は内耳が原因ですが、「悪性」発作性頭位めまい(ブルンス症候群)と呼ばれる病気は脳が原因で起こります。
特定の頭位・体位をとるとめまいが発生するため、症状が出たらめまいを起こさない方へ頭を傾げるようになるのが特徴です。これを「ブルンスの頭位」と呼びます。
悪性発作性頭位めまい症の症状
悪性発作性頭位めまい症(ブルンス症候群)の症状は以下の通りです。
- ある頭位での激しい回転性のめまい。
- 激しい吐き気や頭痛。
- 耳鳴り・難聴は併発しない。
- 元の位置に戻すと症状は消える。
悪性発作性頭位めまいの特徴
良性発作性頭位めまい症と悪性を見極める方法があります。
2つの違いは「減衰現象」が起こるか起こらないで判断できます。良性発作性頭位めまい症は、同じ頭の位置を繰り返すとだんだん症状が軽くなっていきます。これがめまいの減衰現象です。
良性発作性頭位めまい症 | 頭を動かすと症状の出る頭位に慣れて、症状が軽くなる。 |
悪性発作性頭位めまい症 | 頭を動かしても症状の出る頭位に慣れない。むしろ悪化することもある。 |
悪性発作性頭位めまい症は、命の危険性がある病気です。
良性の場合は心配いりませんが、もし、悪性の頭位めまいだと感じたらすぐに病院を受診するようにしましょう。